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■たかが腰痛と侮るなかれ
紺野 愼一 氏 福島県立医科大学医学部 整形外科学講座 教授

無視できない慢性腰痛の心理社会的要因

■ 多くの慢性腰痛には心理社会的要因が背景にある

慢性腰痛は、原因を特定できない非特異的腰痛が85%を占める。レントゲンやMRI検
査などで椎間板性腰痛、椎間関節性腰痛、筋筋膜性腰痛などと診断名はつくが、それ
が必ずしも腰痛の原因を表しているわけではない。同じような病態でも痛みが生じる
人と生じない人がいる。

腰痛経験のまったくない一般人に対してMRI検査を行ったところ、76%にヘルニアが
見つかったという報告がある。ヘルニアがあっても痛みが生じる例と生じない例があ
るわけだが、その差異は何が要因となっているのか。要因の3分の1はヘルニアがどの
程度神経を圧迫しているかにあり、残り3分の2は心理社会的な要因が関係していると
分析されている。仕事が順調ではない、結婚生活に満足していない、人間関係で悩ん
でいる、といった心の問題が腰痛を発症させるのである。

慢性腰痛患者の3分の1は、うつ、身体表現性障害など精神科の診断名がつく疾病を有
しているという報告もある。単にうつを合併している腰痛もあるし、うつが発症した
ために続発する腰痛もあると思われる。

■ なぜ、不安やうつ、ストレスで痛みが発生するのか

うつや不安、ストレスがあると、どうして痛みが生じやすくなるのか、そのメカニズ
ムはよくわかっていない。うつや不安、ストレスを抱えていると、痛みを抑制するシ
ステムである下行性疼痛抑制系の機能がだんだん低下してしまうのかもしれない。通
常であれば我慢できる痛みでも、ストレス下にあると我慢できないほど強く感じるこ
とはあるだろう。痛みに対する感受性の違いもあるし、痛みに執着しやすい性格もあ
る。痛いほうが都合がいいと無意識に判断して痛みを強く感じる「疾病利得」もあ
る。さまざまな心理社会的要因が慢性腰痛には関係していると考えられる。

心理社会的な問題を抱えている人は、一般的に訴えがオーバーであり演技的な傾向が
ある。ニコニコしながら「死ぬほど痛い」と言ったり、10段階のVAS評価で15と回答
したりする。

■ 整形外科患者のための簡易問診票「BS-POP」

整形外科の患者の中で心理社会的な問題を有している患者を鑑別するための簡易問診
票「BS-POP」(Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients)
を、精神科の支援を得て当教室で開発した。医師用と患者用の2種類ある(図)。医
師用は患者の性格的な問題を大雑把に評価することができる。身体表現性障害、心気
症、痛みに対する歪んだこだわり、などを見いだすための設問が8項目ある。1項目3
選択で、最低点が8点、最高点が24点である。患者用は、精神的な健康度を評価する
ことができる。抑うつ、焦燥感、睡眠障害に関する設問が10項目あり、同じく1項目3
選択で、最低点が10点、最高点が30点である。

医師用で10点以上かつ患者用で15点以上の場合には、精神医学的な問題が関与してい
ると判断する。医師用単独使用の場合は11点以上とする。

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■ 慢性腰痛で手術を受ける患者さんのために

BS-POPの開発の経緯は、福島県立医科大学で精神科リエゾンカンファレンスが始まっ
た1996年ころに遡る。当時、腰の手術を多数回受ける慢性腰痛患者がたくさんいた。
そのほとんどが心理的な要因を持っていた。もともと腰に疾病はないのに手術をされ
てしまった患者も多く、当然のことながらいくら手術してもよくならない。「あそこ
の病院で手術してもらえば治るかもしれない」と患者はドクターショッピングを重
ね、別の病院でまた手術を受けるといった事態が散見された。これは何とかしなくて
はならない、と私たちは考えた。

当時、整形外科教授であった菊地臣一先生が国際腰椎学会に参加すると、「なぜ日本
では慢性腰痛の心理社会的な背景が問題にならないのか」としばしば質問されたそう
である。欧米では90年代の半ばには、慢性腰痛に対する心理社会的問題の関与につい
て研究報告がたくさん発表されていた。ところが、日本からはそういった報告がまっ
たく出ていなかったのだ。

患者の心理社会的な問題を探るための検査としては、ミネソタ多面人格目録(MMPI =
Minnesota Multiphasic Personality Inventory)など有名な心理テストがあるが、
設問数が多すぎて整形外科の日常の臨床では使えない。そこで私たちは使い勝手のよ
い問診票を自分たちで作り、精神的な問題のある患者をスクリーニングしよう、と考
えた。精神科と整形外科で検討を重ね、試行錯誤の末、2000年ころにBS-POPを完成さ
せた。BS-POPの妥当性評価に関しては、日本整形外科学会のプロジェクト研究に選ば
れて大規模な検証研究を行い、慢性腰痛患者の精神医学的なスクリーニングに有用性
が高いことを証明することができた。

                                       21世紀健康館 牧野

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